大阪地方裁判所 平成9年(ワ)8848号 判決 1998年5月28日
原告(反訴被告)
山口運送こと山口一幸
被告(反訴原告)
西村久雄
ほか一名
反訴原告(被告)
西村久雄
ほか一名
反訴被告
徳重君雄
主文
一 被告ら(反訴原告ら)は、原告(反訴被告)山口一幸に対し、各金六五万九八三三円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告(反訴被告)山口一幸及び反訴被告徳重君雄は、被告(反訴原告)西村久雄に対し、各自金八万三三三三円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告(反訴被告)山口一幸及び反訴被告徳重君雄は、被告(反訴原告)西村正子に対し、各自金八万三三三三円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告(反訴被告)山口一幸及び被告ら(反訴原告ら)のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その九を被告ら(反訴原告ら)の負担とし、その余を原告(反訴被告)山口一幸及び反訴被告徳重君雄の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)山口一幸に対し、各金九三万八八〇〇円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
1 原告(反訴被告)山口一幸及び反訴被告徳重君雄は、被告(反訴原告)西村久雄に対し、各自金三六八万七五七二円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告(反訴被告)山口一幸及び反訴被告徳重君雄は、被告(反訴原告)西村正子に対し、各自金三六八万七五七二円及びこれに対する平成八年一一月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告(反訴被告)山口一幸が所有し、反訴被告徳重君雄が運転する普通貨物自動車と被告ら(反訴原告ら)の子である西村実希子(以下「実希子」という。)が運転する普通乗用自動車とが衝突した事故につき、原告(反訴被告)山口一幸が被告ら(反訴原告ら)に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求し、被告ら(反訴原告ら)が反訴被告徳重君雄に対しては、民法七〇九条に基づき、原告(反訴被告)山口一幸に対しては、自賠法三条、民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
以下、原告(反訴被告)山口一幸を単に「原告」、反訴被告徳重君雄を単に「反訴被告徳重」、被告ら(反訴原告ら)を単に「被告ら」ということにする。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成八年一一月二四日午前一時二五分頃
場所 大阪府交野市私部六丁目三番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両一 普通乗用自動車(和泉五〇と五八六二)(以下「実希子車両」という。)
右運転者 実希子
事故車両二 普通貨物自動車(神戸八八あ五六四一)(以下「徳重車両」という。)
右運転者 反訴被告徳重
右所有者 原告
態様 本件事故現場の交差点において、実希子車両と徳重車両とが衝突
2 原告の責任原因
(一) 原告は、徳重車両の保有者であり、自己のために同車両を運行の用に供していた者である。
(二) 反訴被告徳重は、原告の従業員であり、本件事故当時、原告の業務の執行中であった。
3 実希子の死亡及び相続
(一) 実希子は、本件事故により、平成八年一一月二六日、死亡した。
(二) 実希子の死亡当時、被告らはその父母であった。
4 損害の填補(反訴関係)
徳重車両付保の自賠責保険及び任意保険から、被告らに対し、合計二四六八万四七八五円が支払われた。
(一) 交野病院に対し、治療費五万一六九一円(甲一四)
(二) 畷生会脳神経外科病院に対し、治療費七六万八〇七〇円
(三) 被告らに対し、自賠責保険金二三八六万五〇二四円
二 争点
1 本件事故の態様(反訴被告徳重の過失、実希子の過失)
(原告及び反訴被告徳重の主張)
本件事故は、赤点滅信号で本件事故現場交差点に進入した実希子車両と黄色点滅信号で同交差点に進入した徳重車両とが出合頭に衝突したものである。反訴被告徳重は、交差点の手前で対面信号が黄色点滅であることを確認し、排気ブレーキをかけいくらか減速しながら交差点に進入した。そして、交差点に進入する直前に左側を見て安全を確認し、同時に右側の安全を確認すべく右を見たが、実希子車両が赤色点滅信号であるにもかかわらず、制限速度(時速三〇キロメートル)をはるかに超える高速度で交差点に突っ込んできたため、これに気づき急ブレーキをかけるも間に合わず、徳重車両の右前泥よけのステップあたりへ実希子車両がノーブレーキで衝突したものである。
したがって、本件の過失割合は実希子が八割、反訴被告徳重が二割と考えられる。
(被告らの主張)
反訴被告徳重は、本件事故現場道路の制限速度が時速四〇キロメートルと規制されており、当該制限速度を遵守して走行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、時速約一〇〇キロメートルで走行した。また、反訴被告徳重は、前方に交差点があり、対面信号機が黄色点滅表示をしていたのであるから、当該交差点に進入するにあたり、十分に左右の安全を確認した上で走行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然と交差点に進入し、既に交差点の中央付近にまで至っていた実希子車両の存在を確認できず、自車を衝突せしめた。徳重車両は、実希子車両と比較し、車体・重量ともに大きい車両である。実希子にも一定の落ち度があることは否定するものではないが、反訴被告徳重には重大な過失があることを考えると、実希子の過失割合は六割を越えるものではない。
2 原告の損害額
(原告の主張)
(一) 修理費 一六九万九五〇〇円
(二) 休車損 六四万七五〇〇円
(被告らの主張)
否認する。
3 実希子の損害額
(被告らの主張)
(一) 治療費(原告及び反訴被告徳重陳述) 八一万九七六一円
(二) 逸失利益 五〇九〇万二三五一円
(三) 死亡慰謝料 二二〇〇万円
(四) 葬儀費 一二〇万円
(五) 墓石購入費 二〇〇万円
(六) 車両損害 五三万円
(七) 弁護士費用 七〇万円
(原告及び反訴被告徳重の主張)
否認する。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(本件事故の態様)
1 前記争いのない事実、証拠(乙三、四)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪府交野市私部六丁目三番一号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、ほぼ南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが交わる交差点(以下「本件交差点」という。)内である。東西道路は、その幅員が約六・二メートル(本件交差点西側)ないし約六・八メートル(本件交差点東側)であり、制限速度は時速四〇キロメートルと指定されていた。他方、南北道路は、その幅員が約四・五メートル(本件交差点南側)ないし約五・七メートル(本件交差点北側)であり、制限速度は時速三〇キロメートルと指定されていた。本件事故当時、東西道路の対面信号は黄色点滅であり、南北道路の対面信号は赤色点滅であった。東西道路を西に向けて走行してきた場合及び南北道路を南に向けて走行してきた場合、どちらも本件交差点における前方の見通しはよいが、左右の見通しは悪い。
反訴被告徳重は、平成八年一一月二四日午前一時二五分頃、時速七〇キロメートルを超える速度で徳重車両を運転して東西道路を西進し、別紙図面<1>地点において進路遠方を見ながら対面信号が黄色点滅であるのを確認し、同図面<2>地点において徳重車両の半分位の速度で進行している実希子車両(<ア>地点)を発見し、急制動をかけたが間に合わず、同図面<×>地点において実希子車両に衝突し(衝突時の徳重車両の位置は同図面<3>地点、実希子車両の位置は同図面<イ>地点)、進行方向右側の歩道に乗り上げた後、空地のアェンス、ブロック塀に衝突し、同図面<4>地点で停止した。実希子車両は、歩道に乗り上げ、同図面<ウ>地点で歩道上の道路標識・街路樹に衝突した後、同図面<エ>地点に停止し、実希子は実希子車両から投げ出され、同図面<オ>地点に転倒した。
以上のとおり認められる。この点、反訴被告徳重は、甲第四号証(陳述書)において、徳重車両は時速約五〇キロメートルよりもいくらか低い速度で本件交差点に進入したと述べているが、本件事故現場に残されたスリップ痕の長さや徳重車両が停止するまでフェンス、ブロック塀に衝突したことに照らすと、これを信用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、本件事故は、基本的には、反訴被告徳重が本件交差点に進入する際右方の注視を怠った過失と実希子が本件交差点に進入する際左方の注視を怠った過失が競合して起きたものであると認められるところ、実希子車両の対面信号が赤色点滅表示であったこと、他方、徳重車両が前記のとおりかなりの速度で本件交差点に進入したこと等本件における一切の事情を考慮すると、反訴被告徳重と実希子の過失割合は一対二の関係にあるとみるのが相当である。
二 争点2について(原告の損害額)
1 損害額(過失相殺前)
(一) 修理費 一六九万九五〇〇円
原告は、本件事故による徳重車両の修理費用として、一六九万九五〇〇円を要したと認められる(甲一六)。
(二) 休車損 二八万円
徳重車両の休車損害については、運賃収入と経費を整理した甲第一五号証があるが、本件事故前三か月にわたり運賃収入、経費ともに全額に全く変動はなく、これが正しい金額を表示したものかどうかについては疑問が残るから、これを基礎に休車損を算定することはできない。また、原告が保有する車両数やその稼動状況についても不明であるから、甲第一八号証に記載されている運賃基礎額(近畿の三トントラックの八時間制運賃基礎額)を参考にすることも相当ではない。したがって、休車損については原告に立証責任がある以上、控え目に認定せざるを得ず、一日あたり一万円の限度で休車損を認めるのが相当である。そして、徳重車両(三・五トン冷凍車)の休車期間は、平成八年一一月二四日から同年一二月二一日までの二八日間であると認められるから(甲一五、弁論の全趣旨)、休車損は合計二八万円の限度で認めることができる。
2 損害額(過失相殺後) 一三一万九六六六円
以上掲げた原告の損害額の合計は、一九七万九五〇〇円であるところ、前記の次第でその三分の一を控除すると、一三一万九六六六円(一円未満切捨て)となる。
3 まとめ
被告らは、相続により実希子の債務の各二分の一を承継したから、原告に対し、それぞれ六五万九八三三円(一三一万九六六六円の二分の一)を元本として損害賠償債務を負うことになる。
三 争点3について(実希子の損害額)
1 損害額(過失相殺前)
(一) 治療費 八一万九七六一円
実希子は、治療費として八一万九七六一円を要したと認められる(甲一四、弁論の全趣旨)
(二) 逸失利益 三六三五万八四八一円
証拠(甲二)及び弁論の全趣旨によれば、<1>実希子は、本件事故当時、二八歳(昭和四三年一〇月二五日生)であり、父母である被告らと暮していたこと、<2>本件事故に遭わなければ、その後三九年間は稼働することができたであろうことが認められ、被告らの主張する平成七年度女子労働者賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計二五ないし二九歳の平均給与額が年額三四一万二五〇〇円であることは当裁判所に顕著である。
そこで、右平均給与額を基礎に、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間内の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。
(計算式) 3,412,500×(1-0.5)×21.309=36,358,481(一円未満切捨て)
(三) 死亡慰謝料 一九〇〇万円
本件事故の態様、実希子の年齢、家族構成その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、実希子の死亡慰謝料としては、一九〇〇万円を認めるのが相当である。
(四) 葬儀費 一二〇万円
本件事故と相当因果関係にある葬儀費は、墓石購入費等の諸経費を含め合計一二〇万円をもって相当と認める。
(五) 墓石購入費 認められない。
右(四)で述べたとおりであるから、墓石購入費として別途計上することはできない。
(六) 車両損害 四四万円
実希子車両は、本件事故によっていわゆる全損となり、実希子は四四万円の損害を被ったと認められる(弁論の全趣旨)。
2 損害額(過失相殺後) 八三六万六〇八〇円
以上掲げた実希子の損害額の合計は、人損五七三七万八二四二円、物損四四万円であるところ、前記の次第でそれぞれその三分の二を控除すると、人損一九一二万六〇八〇円(一円未満切捨て)、物損一四万六六六六円(一円未満切捨て)となる。
3 損害額(損害の填補分を控除後)
徳重車両付保の自賠責保険から被告らに対し、二三八六万五〇二四円支払われ、また、徳重車両付保の任意保険から、治療費合計八一万九七六一円が支払われているから(前記のとおり)、これを過失相殺後の人損一九一二万六〇八〇円から控除すると、残額は存しないことになる。
したがって、過失相殺後の物損一四万六六六六円のみが残ることになる。
4 弁護士費用 二万円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき被告らの弁護士費用は二万円をもって相当と認める。
5 まとめ
被告らは、相続により実希子の損害賠償請求権の各二分の一を承継したから、それぞれ八万三三三三円(一六万六六六六円の二分の一)を元本とする損害賠償請求権を有することになる。
四 結論
以上の次第で、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面 交通事故現場の概況 現場見取図